「週刊農林」2009年5月25日号に掲載・巻頭コラム「農林抄」

 

白書に書かれた問題意識こそ、施策に生かすべき

 

ウーマンズフォーラム魚    代 表  白石ユリ子

 

◎問題意識を持ち、広く集めた情報で書かれた読み物

5月15日、平成20年度の水産白書が閣議決定された。一読し、担当部局が強い問題意識を持って白書執筆に取り組んできたと読み取れたことは高く評価したい。食に対する消費者の信頼確保の必要性、水産資源の低迷、子どもたちのみならず日本人全世代にわたる魚離れの加速、などを見出しに掲げ、その背景をデータや実地の取材から分析してみせる記述は、これまでの白書にはない踏み込み方だ。それだけ、水産庁の白書にかける意気込みも深まったと考えれば、海と魚食文化の大切さを啓蒙してきた者としてうれしく思う。水産庁がようやく、漁業者だけの省庁から国民全般を意識した役所となってきた表れなのだろう。

 

◎なぜ、白書の問題意識が施策に反映されないか。

ところが、読み進んだ先の水産施策案には驚いた。白書に書かれた問題意識がまったく反映されていないではないか。タイトルを列挙してみるだけで、そのいびつさがわかる。「水産資源の回復・管理」「国際競争力のある経営体の育成」「水産物の安定供給」「新技術の開発」「漁港・漁場・漁村の総合的整備」「水産関係団体の再編整備」「その他」。漁業者や漁業団体、漁村、漁場への施策ばかりが並び立ち、消費という文字は“水産物の安定供給”のあとに“消費施策の展開”とあるだけだ。

いまや日本の漁業者は20万人に過ぎない。37パーセントが65歳以上で、新規就業者はわずか1000人だという。この弱小な食料産業に対し厚い施策を行うことは大切ではあるけれども、1億2000万人の国民全体を味方につける方針を持たないでどうするのか。白書に書かれた問題意識とは、すなわち「日本人全体の魚離れ」であり、その背景として「国民の漁業や魚食に対する認識の低さ」ではないのか。それなのに、国民が漁業や魚食文化への理解を深める施策がほとんど講じられていない。水産行政全体の問題としてよく考えてもらいたい。

 

◎「海と魚は国民の財産」というメッセージを望む。

私はかつてノルウェーを訪ねたとき、漁業大臣から「海と魚はわがノルウェーの財産です」といわれ感激を覚えた。もちろん政府資料の冒頭にも書かれていた。漁業大臣という閣僚がいることにも感心したが、国のリーダーが高い意識を持ち、力あるメッセージを発信することが、国民に大きな影響を与えることを実感した。

日本は、ノルウェー以上に海に依存してきた島国だ。古来、海の恵みによって食料や塩はもちろん、生活の道具もエネルギーも与えられてきた。数千年間受け継がれてきたDNAにより、体の構造も魚食に合うようになっている。海藻、小魚から大きなクジラまでを食料としてきた国は、世界広しといえども日本しかない。人口爆発による食料不足、畜産に起こっている世界的な病気など、いまや世界が抱える問題についても、海洋国家であり魚食文化国家である日本は大きなメッセージを発せられるはずだ。次回の白書には、こうした大きな視点と、日本人自身が魚食の価値を再認識するメッセージ、そのための思い切った施策を期待したい。